のんべんだらりといきましょう

はてなダイアリーから引っ越してきました。

詐欺の子

桃井かおりが圧巻だった!!!詐欺被害にあった女性の悲しみや怒りや戸惑いや苦しみをすべて背負っての演技で、さすがとしか言いようがない。そして彼女だけではなく、他のキャストもみなさん素晴らしかった。特に、詐欺グループに飲み込まれる中村蒼、長村航希、高橋ひかる、渡邉蒼の4人の若者たちの追い詰められている演技を見ていたら胸が痛くなった。
ドキュメントパートで実際に詐欺に関わった少年のインタビューを聞き、そしてドラマを見ると、ニュースなどで知る振り込め詐欺とはまた違った、もっと深く暗い世界がそこにはあると思い知らされた。逮捕されるのは現場で現金を受け取る「受け子」や電話をかける「かけ子」、現地への送り迎えや見張りをする「送迎係」の若者たち。足がつきやすい、証拠を残しやすい末端での役割を負って、失敗すれば逮捕される。全ての犯行を一人で行うわけではなく、分業制で全体図が見えず、犯罪の一部分しか関わっていないから罪悪感も少ないのではないかと言われていた。そんな若者たちを利用している大人が背後にいるわけだが、相手は不動産業者や弁護士と一見まともに見えかねない相手だからゾッとする。名簿販売業者が、詐欺に利用すると分かっていながら笑顔で若者に販売するあたりも恐ろしい。こんな大人しか周りにいなかったら、判断能力も鈍るし罪悪感や事の重大さにも気づきにくくなってしまうんじゃないかと思った。
青年たちが詐欺に加担してしまうのは、決して遊ぶ金欲しさだけではなく生きていくためだったり、満たされない気持ちを補うためだったりする。もちろん詐欺は犯罪行為で許されることではないけれど、ラストシーンで「同じ境遇でも犯罪を犯さない人もいる」「あなたは何か努力をしましたか、怠けていたんじゃないですか」と検察官に言われて、それは間違っていない正論だと思うし分かるけれども、正しい意見を並べただけでは終わらないよなぁと考えさせられた。
桃井かおり演じる振り込め詐欺に騙されてしまった母親の、家族や周りから責められる姿が見てて一番きつかった。娘が電話口で母親を怒るのだが、自分も自分の親に対して同じことを言ってしまうと思う。「なんで確認しなかったの」「なんで知らない番号の電話に出るの」「何度も注意してきたでしょ」と一方的に責めてしまう自分の姿が見えて怖くなった。
唯一、ふふっと笑うことができたのは、かけ子たちが作業を続けるアパートの一室に掲げてある「電話を止めるな」の標語であった。(詐欺グループの親玉を演じていたのが濱津隆之