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浮世の画家

濃い90分だった。物語、キャストの演技、美しい色彩の映像とカメラワーク、緊張感を煽り時に気の抜ける音楽、何もかも濃かった。そして見終わった後、集中し過ぎていたせいかどっと疲れました。タイトルと謙さん主演しか知らずに見始めたので、浮世絵画家の情熱に溢れた半生を描くドラマかな~などと勘違いしてましたw
現在の小野の言動と過去の回想に見られる齟齬や違和感、周りの態度や小野に見えている世界に、不安な気持ちがどんどん高まっていく。最初は、小野が都合の悪いことを隠しているんじゃないかと思ったりもしたが、彼の表情は、本当に覚えていない、なぜそんな事を言われるのか分からないというようなものもあり、彼が嘘をついているわけではないと分かってより混乱した。何が現実で何が妄想か、思い込みや勘違い、本当に何もなかったんじゃないかなどと彼の人生に対して疑いの目を向けるようになると、隠された真実を知りたくてのめり込んで見てしまった。
絵などもう家にない事が分かった瞬間、全部妄想だったらどうしよう!とも考えたが、彼の記憶の一部が改ざんされていたというのにもそれはそれでゾッとした。小野にとっては信念と人生をかけた活動であったがために、今となってはそれがもたらした罪の大きさを理解してはいるが、それを完全に否定することは自分の存在を消すに等しい事でもあるから、記憶の改ざんといういびつな形を生み出すしかなかったのだろうか。
お見合いの場で、小野が覚悟を決めて自身の過去を告白謝罪したが、周りの者は「ふーん、でもそんなに気にしなくていいんじゃない?」くらいの軽い感じで流された、その温度差も怖かった。あれっ?気にしてたの自分だけ?自意識過剰?被害妄想?という、周りと自分の考えのベクトルが決定的に違う事を思い知らされるのは、滑稽であると同時に残酷でもあるなぁと思った。
キャストが豪華で驚いてしまった!謙さんはもちろん、青年期を演じた中村蒼も素晴らしかったな。志が高く若き野心家の絵描きが、時流に流されそこに自分の描くべきものがあると傾倒していく時の目の変化が見事だった。あと心くんな!可愛くて素直で、プライドも高く万能感に溢れる小賢しいキッズを演じきっていてすごい。心くんって、愛らしさを最大限に生かしつつ子供らしいブラックさを表現するの上手よねぇ。
出番は少ないながらも、重要なキーパーソンとなる黒田を演じたハギーも良かった!いびつにひしゃげた黒いこうもり傘の陰から振り返って見えるあの表情最高だったわー。実にいいハギーだった…。