25時のバカンス 市川春子作品集(2) (アフタヌーンKC)
- 作者: 市川春子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/09/23
- メディア: コミック
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グロテスクさに磨きがかかっているような。空っぽになってしまった体内に住まう深海生物の登場にもぎょっとしたが、「月の葬式」の病の様子などは苦手な人は本当にダメかも。私は、その描写自体よりもむしろ、周囲に散らばった破片(ボタン)にゾワッとした。あれだけシンプルな絵を描きながらこれほどグロテスクに感じさせるってすごいな。あと、市川先生にとって人間の外見(皮)っていうのは所詮入れ物で、形を変えようが崩れようが魂があれば家族であり愛すべき相手であるってのが強烈に伝ってくる。
光と影、明かりと闇のコントラストが見事。カメラのフラッシュ、夜の海、暗黒の宇宙、夜に浮かぶ雪の白さ、月の輝きと、印象深い場面には必ず光の明るさと闇の暗さが描かれていました。
以下、ネタバレもあります。
「25時のバカンス」 貝に侵食された姉と年の離れた弟の物語。天才科学者乙女さんの弟への愛情と姉を支えようとする弟の関係がまさに「パンドラにて」の舞踏会で言われていた「相手が上手く踊れるよう 互いに自分を捧げればいい」だった。これが3つの作品に共通するテーマを端的に表した言葉だと思うし、さらっとこんなセリフが出てくる市川先生すごい。ただ、32歳の姉が20歳の弟に対して近親相姦的な気持ちを抱くってのがどうにも受け入れづらかった。そのうえ、具体的な描写はほとんどないにも関わらず、エロティシズムがあちこちから感じられてちょっとうわーとなってしまいました。
「パンドラにて」 不思議な新入生と不良娘の心温まる交流で終わるのかと思ったら、そんな甘くはなかった。最初何が起こったのかわからなかったけど、卒業生は宇宙船の入り口と偽った扉から生身で宇宙に放り出されて破裂してしまったって事なんだよね。まるで花が咲いたように破裂する少女達と新たな体に変形してグロテスクな形状になってしまったロロと、美しさと醜さが紙一重の世界だった。
「月の葬式」 これが3作品の中で一番好きだな。兄と弟のやり取りがコミカルで笑えるのも良い。親の期待も数式も何でも分かってしまう天才少年が、それゆえに無気力になっていた所で、目の前に現れた難問を前に全力で取り組もうとする流れがいい。降り注ぐ月のかけらが道しるべとなる見開きページは大迫力。患部からのぞく千羽鶴と、雪解けの穴からきれいな花を咲かせるクロッカス(?)が重なって、待ちわびた春が来たように思えて明るい気持ちになるラストだった。