のんべんだらりといきましょう

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疾走 重松清

疾走

疾走

ページをどれだけめくってもシュウジの目に前に横たわる残酷な現実は救われることがなく、読んでいてどんどん心が痛く重くなっていく。後半、シュウジが故郷を飛び出してからの方が、描写としては圧倒的にきついけれど、前半の地元での生活の方が読んでいて辛かった。幸せで穏やかだった日常が、少しずつ崩れていく様を見せられて、最後は抜け殻となってしまったシュウジの家族。兄が、父が、母がいなくなった家で、手元にあるわずかなお金で弁当を買い、ひとりで食事をするシュウジが辛すぎた。故郷を出てからも苦難に満ちた生活を送るのは一緒だが、それでもアカネやみゆきやエリが、繋がってくれた。それに比べると、本当に「ひとり」になってしまった故郷での暮らしの方が見ていられなかった。神父さんが救いになってくれることを願っていたんだけどね。
ナイフを向けるシュウイチに、「できる事があったら言って」と話すシュウジ、あの瞬間きっとシュウイチはシュウジが大好きだった強い兄に戻ったと思う。でも、それは一瞬の出来事で、やはり狂ったシュウイチは暗闇の中へ走り出してしまう。このような、掴めそうで掴めない、取り戻せそうで取り戻せない場面が多くて切ない。ロードレースと同じコースで記録が出せれば自分は大丈夫、「からから、からっぽ」なんかにならない、と自分に言い聞かせるように走るシュウジだが、徹夫によって阻まれてしまう。そして、シュウジの目は穴ぼこになってしまった。この部分が一番のクライマックスだった、私にとって。
シュウジやエリというのは、あまりにもその生い立ちが過酷なため「物語の登場人物」であると思えるのだが、徹夫だけは違った。苛められる側だったのが、苛める側に変化していく様子、しかし、その本質は誰よりも「ひとり」でいられない臆病な少年として、リアルに感じられた。これはすごく「分かる」なぁ。
あと、みゆきが悲しすぎる。逃げのびて幸せになって欲しかったよ…。


映画では、宮原雄二役を加瀬亮がやっているようで、あの役をどう演じているのか気になるのだが、近所のレンタル屋には置いてないんだよね。見てみたいのになー。