のんべんだらりといきましょう

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幸福な食卓

いい映画だった。無駄なセリフも場面も何一つなかったんじゃないかな。言葉、演出、全てに意味があったと思う。
以下、盛大にネタバレありますので、ご注意ください。



「父親をやめる」と宣言した父、成績優秀なのに大学進学を止めて農場で働く兄、ある日突然家から出て行ってしまった母。困惑しつつもそんな家族とともに生きる娘、佐和子。何故そんな事になっているのか一切説明なく物語りは始まるが、それぞれの抱える事情が少しずつ明らかになっていく過程がとても上手くて、あっという間に引き込まれた。
側にいすぎると見えないものがある、少し離れていた方が分かる事もある。父、母、兄それぞれが生きていくために、家族がこれ以上壊れないために必要な措置としてこの現状があるんだよね。
佐和子の前に現れた大浦くんが、これまたなんと魅力的なこと!真っ直ぐで大きな心をもつ優しい少年で、いつも佐和子を助けてくれる。あー、本当にいい子だった。だからこそ、後半の急展開はショックだった。人が死ねば感動が生まれるとか思ってんのかー!?だ、騙されないぞ!そんな手に、そんな手にのせられるものかっ……う、う、うわぁぁぁぁあああああん!!!で号泣。過剰な演出を一切せず、淡々と描かれているからかえってずっしりくる。佐和子が父に向かって「死にたかったお父さんが死ねなくて、死にたくなかった大浦くんが死んでしまうのはおかしい」と言う場面も、重い言葉を静かに語っていたからこそ見ていて本当に辛くなったよ。
ただ、ちょっとしっくりこなかった事は、序盤は家族の物語なんだけど、中盤で青春ラブストーリーの要素が強くなり、終盤は再び家族の物語に戻ったという印象を受けてしまった事かなぁ。「家族の再生」が大きなテーマだと思っていたんだけど、大浦くんの件が衝撃的過ぎて、肝心の「再生」の部分が薄まってしまったような気がした。それは私が「家族」の部分に拘りすぎて見ていたからかもしれないけど。
父親役の羽場裕一が、素晴らしかった。壊れてしまった父親の頼りなさや、気を抜くとアッチ側へ行ってしまいそうな不安定さがあって、本当に病んでいるように見えた。
原作があることを後から知ったけど、原作も読んでみたくなったよ。