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合本 真夜中の弥次さん喜多さん しりあがり寿

合本 真夜中の弥次さん喜多さん

合本 真夜中の弥次さん喜多さん

ヤジさんとその恋人でヤク中のキタさんが、伊勢を目指して旅するお話…なのだが、この「真夜中の〜」のでは伊勢までたどり着いていない。それでも、一つの物語として見事に完結している。
初めはこの世界のどれがリアルでどれが幻想なのかを考えながら読んでいた。主要キャラ以外の町の人々などで、描き込みが細かい人は幻想の中の人々、逆に単純化された線で描かれた人々がリアルの人々なのかなぁなどと、いちいち考えていた。しかし、読んでいくうちに、「それがどちらであるか」なんてことはどうでもよくなり、ヤジさんキタさんの見る世界は全て彼らにとっての現実でいいじゃないか、という気分になってくる。
以下ネタバレもあります。



もっと不条理でよく分からない話なのかと思い込んでいたが、切なく泣ける物語だった。特に、自分らしく生きたかった、そしていつも寂しそうなキタさんが泣かせてくれる。後半、キタさんがヤジさんを殺してしまった以降の怒涛の展開が凄い。殺してしまうのは「トロロが痒かったから」という何ともいえない理由だが、その時とっさに口から出た「てめぇは何だってヒトのことわかった気で おせっかいやきやがる」と言うのもヤジさんの本音なのかもしれない。愛し合っているとはいえ、どこかいつも寂しそうなキタさんは、心の中に孤独があるに違いない…と私は思っている。その直後の「キタさんはエクスカリバーを手に入れて ヤジさんを失った」の言葉と、放心状態のキタさんと死んだヤジさんを俯瞰から見下ろす構図で、どうしても満たされなかったキタさんの心を感じたような気がした。
キタさんを助けようとする地母神・奪衣婆と空の守、夢の中で永遠に生き続けようとするバーのマスターと眠る女。生と死は表裏一体であるという普遍的なことを、ああも強く直接的に描いているから切ないのだろうか。地母神の母の愛、空の守の優しさ、マスターと眠る女の永遠の愛、ウソのヤジさんの強さ、そしれ本物のヤジさん。キタさんにとっては生きにくい世の中かもしれないけれど、彼の周りには優しい光に満ちているような気がした。そう思うとこの漫画には生と死、リアルと幻想だけでなく愛にも溢れていると思う。


どのエピソードが映画化されているのか気になって、映画公式サイトを覗いてみたら。奪衣婆が研ナオコで、バーテンがARATA、恋人が麻生久美子なのか!!バーテンのARATAすんごく見たい…!冷たい男前な感じが似合っているなぁ。でもキャストには空の守もいないし、その他のエピソードは合本にないようなので、オリジナルかDEEPの方からとったのだろうか?


現在はDEEPの3巻を読書中。